A4の宇宙

数学と物理をA4ノートに収まる範囲で。

等躍度運動で分かるテイラー展開

テイラー展開の性質

無限回微分可能な任意の関数f(x)を、ある点x=aの近傍では下記のようなべき級数で表してよい。これをテイラー展開と呼ぶ。

\begin{eqnarray}
f(x)&=&f(a)+f'(a)(x-a)+\frac{1}{2!} f''(a)(x-a)^2+\frac{1}{3!}f'''(a)(x-a)^3+\cdots\\
&=& \sum_{k=0}^{\infty}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k
\end{eqnarray}

 

以前導いた等躍度運動の式を用いて、テイラー展開の性質3つが成り立つ理由を説明する。

  1. 色々な関数を(x-a)^nの無限べき級数で表してもよい。
  2.  (x-a)^{n}項の係数は \displaystyle \frac{f^{(n)}(a)}{n!}である。
  3. べき級数は低次の項だけ計算すれば大体合っている。

 

等躍度運動の式の変形

 説明のため、3次のべき級数である等躍度運動の式を再掲する。

\begin{eqnarray}
f(t)=\frac{1}{6}j t^3+\frac{1}{2}a_0t^2+v_0t+x_0
\end{eqnarray}

 

昇べきの順に並びかえる。

\begin{eqnarray}
f(t)=x_0+v_0t+\frac{1}{2}a_0t^2+\frac{1}{6}j t^3
\end{eqnarray}

 

係数を階乗で表す。

\begin{eqnarray}
f(t)=\frac{1}{0!}x_0+\frac{1}{1!}v_0t+\frac{1}{2!}a_0t^2+\frac{1}{3!}j t^3
\end{eqnarray}

 

今まではt=0x=x_0と考えていたが、t=aにおいてx=x_0と考えて式を書き直す。

\begin{eqnarray}
f(t)&=&\frac{1}{0!}x_0+\frac{1}{1!}v_0(t-a)+\frac{1}{2!}a_0(t-a)^2+\frac{1}{3!}j (t-a)^3\\
&=&\sum_{k=0}^{3}\frac{C_n}{k!}(t-a)^k
\end{eqnarray}

次数が無限でないことを除けば、等躍度運動の式とテイラー展開の式はとても良く似ていることが分かる。 

 

1. なぜ色々な関数を (x-a)^nのべき級数で表していいのか

仮想的にテイラー展開でもxを時間、f(x)を位置と考えてみると、一階微分は速度、二回微分は加速度、三回微分は躍度…に相当する。速度(一階微分)や加速度(二階微分)が最終位置(元の関数)にどのように影響するかを、物体の運動と同じように適用することで、色々な関数を近似できる。

 

「対象の関数はべき級数とは限らないのにそうしていいのか?」という疑問が残るが、テイラー展開には「無限回微分可能」かつ「xが基準点aから近い」という縛りがあるので、べき級数でなくとも初速度や初加速度からの影響は「自然な」(f^{(n)}(a)が1つの値に定まる)影響しか受けない、と言えるのである。(もし成り立たないとすればxa収束半径よりも離れているということ)

 

テイラー展開の手順を図字する。

ある関数 f(x)において、f(x)xのべき級数で表したい。まずテイラー展開の基準点aを決定する。

f:id:dai-ig:20181226221104j:plain

 

分かりやすいように目標地点を拡大する。xaが近いという前提があるのでf(a)だけで近似してもそれなりに近い値になる。これは位置項x_0だけによる近似と等価である。

f:id:dai-ig:20181226221156j:plain

 

ここからがテイラー展開である。点aにおける傾きf'(a)に底辺長x-aを掛けて先ほどのf(a)に加える。これは速度項v_0tによる補正と等価であり、この処理で誤差がグッと小さくなることが分かる。テイラー展開のべき級数 (x-a)^nの形になっているのは、この底辺長に対応していることによる。

f:id:dai-ig:20181226221216j:plain

 

さらに加速度項 \displaystyle \frac{1}{2}a_0t^2による近似を加える。この時の係数は視覚的に明らかではないので後述する。

f:id:dai-ig:20181226221227j:plain

 

位置、速度、加速度と反映するごとに、だんだん誤差が小さくなっていることが分かる。

 

 2. なぜ f^{(n)}項の係数は \displaystyle \frac{1}{n!}t^nなのか

これについては先ほどの章でほぼ答えが出ている。等躍度運動の式を見れば、加速度項から距離を生むための係数は 1/2=1/2!、躍度項から速度を生むための項は1/6=1/3!であった。この1/n!という係数は、n微分した項から距離を生むための係数に等しいのである。

 

3. なぜ途中まで計算すれば大体合っているのか

t^3の強さ

等躍度運動の位置の式を再掲する。簡単のため、運動開始の時刻はt=0とした。

\begin{eqnarray}
f(t)=\frac{1}{0!}x_0+\frac{1}{1!}v_0t+\frac{1}{2!}a_0t^2+\frac{1}{3!}j t^3
\end{eqnarray}

 

t=10を代入してして位置xを計算する。

\begin{eqnarray}
x &=& x_0+10v_0+ \frac{100}{2}a_0+\frac{1000}{6}j
\end{eqnarray}

 

係数にもよるが、 \displaystyle \frac{1}{6}jt^3がとても強いことが分かる。時間tが経過するにつれて、位置xの値はほとんど躍度項 \displaystyle \frac{1}{6}jt^3が占めることになる。

 

ここで逆にtがとても小さい場合を考える。t=0.1を代入して計算する。

\begin{eqnarray}
f(t)&=& x_0+ 0.1v_0+\frac{0.01}{2}a_0+\frac{0.001}{6}j
\end{eqnarray}

 

小さい時間tにおいては、躍度項や加速度項はとても小さくなってしまい、速度項まで計算すれば大体の近似が可能になる。これがテイラー展開の本質の一つである。

 

 

項を拡張して無限のベキ関数を考える。これは躍度の時間変化率、そのまた時間変化率、と無限に考えていくことに等しい。C_nは数列であり、t^n項の比例係数が格納されている。

\begin{eqnarray}
x &=& x_0+v_0t+ \frac{1}{2}a_0t^2+\frac{1}{6}j t^3 +\cdots\\
&=& \frac{1}{0!}x_0+\frac{1}{1!}v_0t+ \frac{1}{2!}a_0t^2+\frac{1}{3!}j t^3 +\cdots\\
&=& \sum_{k=0}^{\infty} \frac{C_k}{k!}t^k
\end{eqnarray}

 

等躍度運動の場合、 C_n=x_0, v_0, a_0, j,0,0,0,0,\cdotsという訳である。