A4の宇宙

数学と物理をA4ノートに収まる範囲で。

運動エネルギーの定義が(1/2)mv^2なのはなぜか

概要

運動エネルギー Kは以下のように定義されている。

\begin{eqnarray}
K=\frac{1}{2}mv^2
\end{eqnarray}

この式はある物体の運動エネルギーが、その質量 mと速度の2乗 v^2に比例することを表す。しかし、係数として \displaystyle \frac{1}{2}が掛かっている。 mv^2を運動エネルギーの定義としなかったのはなぜだろうか?

 

係数を \displaystyle \frac{1}{2}とするのが合理的なことを、等加速度運動の式2種と、運動方程式を用いて導く。

 

導出

一定の力 fを受け、等加速度直線運動する物体を考える。物体の速度 vを表す式は以下のように書ける。時刻を t、加速度を a(\neq 0)、初速度を v_0とする。

\begin{eqnarray}
v=v_0+at \tag{1}
\end{eqnarray}

 

物体の位置 xを表す式は以下のように書ける。初期位置を x_0とする。

\begin{eqnarray}
x=x_0+v_0t+\frac{1}{2}at^2 \tag{2}
\end{eqnarray}

 

式(1)と式(2)から tを消去する。式(1)を tについて変形する。

\begin{eqnarray}
at&=&v-v_0 \\
t&=&\frac{v-v_0}{a} \tag{1'}
\end{eqnarray}

 

これを式(2)に代入する。

\begin{eqnarray} \require{cancel}
x&=&x_0+v_0t+\frac{1}{2}at^2 \tag{2} \\
x&=&x_0+v_0\left(\frac{v-v_0}{a}\right)+\frac{1}{2}a \left( \frac{v-v_0}{a} \right)^2 \\
x&=&x_0+\frac{v_0v-v_0^2}{a}+\frac{1}{2a} \left( v-v_0 \right)^2 \\
x&=&x_0+\frac{\cancel{v_0v}-v_0^2}{a}+\frac{v^2-\cancel{2v_0v}+v_0^2}{2a}  \\
x&=&x_0+\frac{v^2-v_0^2}{2a}  \\
x-x_0&=&\frac{v^2-v_0^2}{2a} \tag{3}
\end{eqnarray}

式から tが消え、 x vの関係が得られた。

 

運動方程式 f=maより、 \displaystyle a=\frac{f}{m}である。ここで fは物体が及ぼされる力、 mは物体の質量である。これを式(3)に代入して aを消去する。

\begin{eqnarray}
x-x_0&=&\frac{v^2-v_0^2}{2a} \tag{3}\\
x-x_0&=&\frac{v^2-v_0^2}{2\frac{f}{m}} \\
f(x-x_0)&=&\frac{m(v^2-v_0^2)}{2} \\
f(x-x_0)&=&\frac{1}{2}m(v^2-v_0^2) \\
\end{eqnarray}

 

左辺は物体に力 fを及ぼして、座標 x_0から xに動かしたときの仕事であり、右辺は質量 mの物体の速度が v_0から vに変化したときの運動エネルギーの変化に等しい。この式は「物体が外部から仕事を受けると、それに相当して運動エネルギーが変化する」ことを表している。

 

つまり、そもそも仕事と等価にするために運動エネルギーの定義が決まっていて、その計算過程で係数 \displaystyle \frac{1}{2}が現れるのである。また、 \displaystyle \frac{1}{2}のそもそもの出どころは等加速度運動で位置 xを表す式の中にある項 \displaystyle \frac{1}{2}at^2であることが分かる。